絢星館に進学して間もなく2週間。
とはいえ多くが海咲浜から上がってきた人ばかり。
なので向こうで生徒会長をしていた私にとって、
クラスのほぼ全員の顔に見覚えがあると言っていいくらいです。
「穏やかな日々を否定するわけではありませんが、代わり映えしない日常というのも退屈ですわね」
海咲浜の頃と違って今は肇さんとも同じ校舎。
なので会いに行こうと思えばすぐに行ける距離にある。
しかし10分しかない休み時間、
そう何度もお邪魔してはご迷惑になってしまうでしょう。
簡単に会える距離だからこそ、簡単に会えないことがこうももどかしく感じるなんて……
ほらご覧なさい、私ってばうっかりポエミーなことまで考えてしまっていますわ。
それに友達のグループすらここに来て新しくなることもなく、
海咲浜の頃の友達同士で今まで通り固まっている印象もある。
「おかげで退屈にも拍車がかかりますわね……」
お昼休みになれば肇さんと昼食をご一緒できる。
そこまでこの退屈を乗り切れば……
しかし意識すればするほど、私の退屈は抱えきれないほどの大きさとなり私にのしかかってくる。
「ねえねえ古塚さーん。二宮さんが来てるよ」
「えっ!? 肇さん!? ほ、本当ですか!?」
まさか肇さんから!?
私がお会いしたいと思っている今まさに!?
「ああやはり私と肇さんは運命の赤い糸で結ばれているに違いありませんわあ♪」
「やっほー、青葉だよお! ごめ~ん由依、昨日借りた古文のノートなんだけど寮に忘れてきちった♪」
「まったくあなたという人はああああああッ!!!!」
「あっ、あっちょ由依! 首! 首締まってまふ!」
私と青葉のやり取りを見て驚いているクラスメイトもいる一方、
逆に見慣れている人もいるようで一部の男女は囃し立てるように歓声を上げている。
そういえばこちらへの進学後は青葉とも萌楓とも別のクラス。
クスッ……♪
思えばこんな騒がしくもバカバカしい日常も久しぶりでしたわね。
「どうじでなんだよおおおお! わざとなんかじゃないんだ! 信じでぐれよおおおお!」
「どうしてもこうしても、あなたがノートを忘れてくるからですわ!」
「ん゛あ゛あ゛ああああああ!? はい正論!」
「だいたい今日は古文のノートを提出する日だから、あれほど忘れないようにと!」
「私たち友達じゃん? 死ぬ時は一緒だぜ☆」
「一人で死になさい! 三途の川の渡し賃くらいは差し上げますわ!」
とはいえここで青葉の道連れにされることは構いません。
しかし青葉が他人に迷惑をかけたとなれば、
肇さんが気にされてしまうことにつながるでしょう。
「仕方ありませんわね……」
「一緒に道連れになる気になった?」
「そうですわね。道連れと言えばこれも道連れなんでしょう」
「どゆこと?」
「寮に忘れたのでしょう? でしたら今から二人で取りに参りますわよ」
「二人でって、でももう授業始まるよ?」
「ええ。ですが急げば始めの数分遅刻するだけで済みますわ」
ああ――
私が求めていたのはこんな日常ですわ。
無駄に騒がしく、意味もなく賑やかな毎日。
「ゆ、由依がワルになった!?」
「フフッ、私はもともとこういう性格ですから♪ さあ行きますわよ!」
手近なクラスメイトにノートの件を伝えると、
私達は揃って教室を飛び出すのでした。
END