海咲浜生として最後のハロウィンパーティー。
二宮先輩のおかげで終始楽しく過ごすことが出来た。
それはきっと私だけじゃない――
あれだけ仕事、仕事と言っていた由依もそう。
そんな由依を笑顔にしようと、
仕掛け人として一緒に回っていた青葉もそう。
全生徒を笑顔にするという先輩の計画は大成功!
私はこのまま絢星館に進学するつもりだけど、
よそへ進学する人たちにとっても最高の思い出になったと思う。
「幸せな気持ちで胸がいっぱいだよお♪」
だからこそ私はまだ胸がドキドキしてるうちに――
先輩にお礼を伝えなきゃ!
……と、思って手紙を書き始めたんだけど。
「普段男の人に手紙なんて書かないし、
何を書いたらいいのか正直さっぱりわからないよね……」
う~ん……
“今日は先輩と一緒に過ごして、胸がいっぱいで、ドキドキして――”
「ってこれじゃラブレターみたいだよ!?」
頭の中で考えた文章をくしゃくしゃに丸めて捨てる。
あ、危なかった。
別の切り出し方を、別の切り出し方を……
“由依を笑顔にしようと頑張る先輩、カッコよかったです。
でも同時に、そんな風に真剣に想ってもらえる由依が羨ましくて――”
「いやいや、やっぱりこれラブレターみたいだよね!?」
お姉ちゃんにからかわれたりもするけど……
確かに頼りになる先輩はカッコいいし、一緒にいると安心する。
もし私が告白しても真剣に考えてくれるのかな?
……なんて、実は考えちゃったこともあるくらいだし。
お姉ちゃんに遠慮してるから?
それとも私じゃお姉ちゃんたちには勝てないって思ってるから?
“先輩が好きです”
試しに本当に文章に起こしてみる。
「……うん」
何やってるんだろうなって気がするし、
顔が真っ赤になってるのがわかるくらい熱くて恥ずかしい。
だけど――
自分でもビックリするくらい、
本当に書きたかった言葉が見つかった気がしている。
それにさっきよりも幸せな気持ちで胸が満たされて、
どうしようもないくらいドキドキしてる。
「噂だと今日、先輩は告白の返事をするんだよね?」
もちろんそれがお付き合いを受ける返事とは限らない。
もしそうなれば、他の子にもチャンスがあるかもしれない。
「えっと……」
念のため部屋の中を見回すが当然誰もいない。
「取っておくだけ。取っておくだけだから……」
机の引き出しをひっくり返すと、
その一番底にそんな宛名のないラブレターをこっそりとしまい込むのだった。
END