季節は春。
もう何度目か忘れてしまった引っ越しを経て、
俺はこの度、婆ちゃんのやっている民宿に住むことになった。
窓を開ければ田んぼが広がり、裏口を出ると、
そこは山とも言える深い雑木林。
当然周囲にコンビニはなく、虫が苦手な俺にとって、
ここは間違いなく田舎と呼ばれる秘境だった。
一緒に越してきた姉さんによれば、引っ越しは今回で最後。
学校もこの町で卒業し、その後家を出るならそれも自由。
つまり、今まで諦めていた恋をするチャンスが巡ってきた。
「恋は受け身じゃ始まらない」
俺はこの田舎町で、人生初の恋をする。
白鷺町(しらさぎちょう)
海と山、両方に囲まれた稲作が盛んな平野地帯。
人口は3万人。
老人と子供が大変元気な、町おこしに躍起になっているシルバーカントリータウン。
ゆるキャラに企業誘致、あらゆる案件で老人と若者が日々戦っている。
地名の由来にもなっている白鷺は数年前に全滅。
その影響もあり、近々町の名前を恋ヶ原(こいがはら)セントラルパークにしようという動きがある。
ちなみに一部の若者からは大変な不評を買っている。