「それじゃ、風呂、お借りしますね」
軽く手をあげて立ちあがり、風呂場へ向かおうとしたところで。
「…………」
先輩に、袖を引っぱられた。
「なんですか、先輩。どうかしました?」
「……私も一緒に入る」
「…………は?」
……先輩、今なんて言った?
「一緒に、入る」
もういちど、はっきりと先輩は言った。
「一緒に入るって……その、風呂に、ですか?」
「他になにがあるの、この状況下で」
「いやまあ……そうなんですけど」
「だめ?」
「うーん、べつにだめってことはないですけど」
「こう、ちょっと窮屈な感じになっちゃうんじゃないですか?」
もともと広くない風呂場だし、ゆったりのんびりという感じにはならないだろう。
「……それでいい」
「それに……コーメイの背中、洗ってみたい」
(中略)
先輩の体を後ろから抱くようにして俺が座る。
すると。
「…………コーメイ」
先輩は、ちょっとムッとしたような声を出した。
「なんですか?」
「……おかしい」
「なにがです?」
「この状況が」
「俺としては、なにもおかしいところはないと思いますけど」
「ううん、おかしい。違う」