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「そうやって黙ってれば、あたしが納得するとでも思った?」
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「みんなには申し訳ないと思っ……」
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「ふざけないで!」
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階段の一段下から頬を打たれ、中断された言葉を噛みしめる。
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裏腹に、安部さんは寂しそうに俺を見ていた。
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「みんな、本気でやってるの。あなたが教えてくれたのよ?」
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「舞台の楽しさ。役者として真剣に打ちこむことの大切さ」
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「…………」
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「あなたも本気でプロの役者を目指しているなら、
私情なんて捨てなさいよ!」
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真っ直ぐな言葉が胸に突き刺さる。
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本気でプロの役者を目指しているなら――
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忘れていたわけじゃない。
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ただ、俺が変わってしまっただけだ。
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周りを突き落としてでも上を目指そうとする、表舞台への飢餓感。
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そうしたハングリー精神を失い、代わりに得たモノは……
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「あなたがそんな考えでいるのだったら、
あたしは次の舞台、降りるわ。いい作品になるわけないもの」
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「安部さん、それは……」
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「昔のあなたは、もっとギラギラしてた。傲慢なぐらいに」
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「でも今は、ただの優しいお兄さんね。なんの魅力もない……」
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